36 複数回答データの分析

この章では、異なる値や回答の組み合わせの頻度分析をプロットする方法を説明します。上記のプロットでは、複数の症状が発現した感染者の頻度分析をプロットしています。

このような頻度分析は、以下のように呼ばれることもあります。

  • 複数回答データの分析(Multiple response analysis
  • セット分析(Sets analysis
  • 組み合わせ分析(Combinations analysis

上記のプロット例では、5 つの症状が示されており、それぞれの縦棒の下には、反映されている症状の組み合わせを示す線と点があります。左側の横棒は、各症状の頻度を示しています。

まず初めに ggupset パッケージを使用した方法を説明し、次に UpSetR パッケージを使用した方法を紹介します。

36.1 データ準備

パッケージを読む込む

以下のコードを実行すると、分析に必要なパッケージが読み込まれます。このハンドブックでは、パッケージを読み込むために、pacman パッケージの p_load() を主に使用しています。p_load() は、必要に応じてパッケージをインストールし、現在の R セッションで使用するためにパッケージを読み込む関数です。また、すでにインストールされたパッケージは、R の基本パッケージである base (以下、base R)の library() を使用して読み込むこともできます。R のパッケージに関する詳細は R の基礎 の章をご覧ください。

pacman::p_load(
  tidyverse,     # データ管理と可視化
  UpSetR,        # 複数回答データ分析用のパッケージ
  ggupset)       # 複数回答データ分析用のパッケージ

データをインポートする

エボラ出血熱の流行をシミュレートしたデータセットをインポートします。お手元の環境でこの章の内容を実行したい方は、 クリックして「前処理された」ラインリスト(linelist)データをダウンロードしてください>(.rds 形式で取得できます)。データは rio パッケージの import() を利用してインポートしましょう(rio パッケージは、.xlsx、.csv、.rds など様々な種類のファイルを取り扱うことができます。詳細は、インポートとエクスポート の章をご覧ください)。

# ラインリストをインポートする 
linelist_sym <- import("linelist_cleaned.rds")

このラインリストには、報告された 5 つの症状について、症状あり(yes)か症状なし(no)を示す変数(列)が含まれています。ggupset パッケージを使ってプロットを作成するために、変数の前処理が必要です。まず、データを確認しましょう(症状の変数(列)を確認するには、以下の表を右にスクロールしてください)。

変数の値を変換する

ggupset パッケージが求めるフォーマットに合わせるため、dplyr パッケージの case_when() を使用し、症状あり(yes)と症状なし(no)を実際の症状名に変換します。症状なし(no)の場合は、値を空白にします。以下のコードを実行すると、症状に関するすべての値が NA か症状名のどちらかに変換されます。

# 症状ごとに変数(列)の値を変換する
linelist_sym_1 <- linelist_sym %>% 

  # 症状あり(yes)または症状なし(no)を、症状名に変換する
  # 変換前の値が (yes) であれば症状名 (fever) に置き換え、それ以外の値を NA に置き換える
mutate(fever = ifelse(fever == "yes", "fever", NA), 
       chills = ifelse(chills == "yes", "chills", NA),
       cough = ifelse(cough == "yes", "cough", NA),
       aches = ifelse(aches == "yes", "aches", NA),
       vomit = ifelse(vomit == "yes", "vomit", NA))

次に、最終的にプロットに使用する 2 つの変数(列)を作成します。

  1. 患者ごとに、5 つすべての症状を結合した文字型変数(列)
  2. ggupset パッケージが求めるフォーマットに合わせるため、その文字型変数(列)をリスト型に変換する

以下のコードで使用されている stringr パッケージの unite() 関数についての詳細は、文字型データをご覧ください。

# 上記のコードで作成した症状ごとの変数(列)を、セミコロンで結合し、all_symptoms という 1 つの変数(列)にする
linelist_sym_1 <- linelist_sym_1 %>% 
  unite(col = "all_symptoms",
        c(fever, chills, cough, aches, vomit), 
        sep = "; ",
        remove = TRUE,
        na.rm = TRUE) %>% 
  mutate(
    # 作成した all_symptoms 列をリストで複製する(次のステップで使用する ggupset() 関数のため、リスト型への変換が必要)
    all_symptoms_list = as.list(strsplit(all_symptoms, "; "))
    )

上記のコードで作成したデータを以下に表示します。一番右の列が、複数の症状を結合したリスト型列です。

36.2 ggupset パッケージでプロットを作成する

最初に、パッケージを読み込みます。

pacman::p_load(ggupset)

プロットを作成していきます。まず、ggplot()geom_bar() を使用し、次に ggupset パッケージの scale_x_upset() 関数を使用します。

ggplot(
  data = linelist_sym_1,
  mapping = aes(x = all_symptoms_list)) +
geom_bar() +
scale_x_upset(
  reverse = FALSE,
  n_intersections = 10,
  sets = c("fever", "chills", "cough", "aches", "vomit"))+
labs(
  title = "Signs & symptoms",
  subtitle = "10 most frequent combinations of signs and symptoms",
  caption = "Caption here.",
  x = "Symptom combination",
  y = "Frequency in dataset")

ggupset パッケージについての詳細は、こちらのページ をご覧ください。オフラインの場合は、RStudio のコンソールで ?ggupset を実行すると、パッケージに関する詳細を確認することができます。

36.3 UpSetR でプロットを作成する

UpSetR パッケージを使用すると、 プロットを細かくカスタマイズすることができますが、ggupset パッケージよりも難易度が高いです。

最初に、パッケージを読み込みます。

pacman::p_load(UpSetR)

次に、データの前処理を行います。

linelist オブジェクトの各症状の変数(列)について、症状あり(yes)の値は 1 に、症状ない(no)の値は 0 に変換する必要があります。

linelist_sym_2 <- linelist_sym %>% 
     # convert the "yes" and "no" values into 1s and 0s
     mutate(fever = ifelse(fever == "yes", 1, 0), 
            chills = ifelse(chills == "yes", 1, 0),
            cough = ifelse(cough == "yes", 1, 0),
            aches = ifelse(aches == "yes", 1, 0),
            vomit = ifelse(vomit == "yes", 1, 0))

より効率的に処理する関数に興味がある場合は、論理構文に基づいて値を 1 と 0 に置き換える関数 +() を利用できます。この関数は、across() を利用し、複数の列を一度に置き換えます。(詳しくはデータクリーニングと主要関数を参照してください)。

# "yes" という値を 1 や 0 に効率的に変換するコード
linelist_sym_2 <- linelist_sym %>% 
  
  # "yes" を 1 へ "no" を 0 へ置き換える
  mutate(across(c(fever, chills, cough, aches, vomit), .fns = ~+(.x == "yes")))

プロットをカスタマイズする upset() 関数で、症状に関する変数(列)のみを使用し、プロットを作成していきます。sets = 引数で、比較する症状の「集合(sets)」を指定する必要があります(組み合わせに使用するすべての症状の列の名前を指定する)。また、nsets = 引数と order.by = "freq" 引数を使用し、頻度の多い上位 X 個の組み合わせ(X は任意の数)のみを表示することもできます。

# プロットを作成する
linelist_sym_2 %>% 
  UpSetR::upset(
       sets = c("fever", "chills", "cough", "aches", "vomit"),
       order.by = "freq",
       sets.bar.color = c("blue", "red", "yellow", "darkgreen", "orange"), # optional colors
       empty.intersections = "on",
       # nsets = 3,
       number.angles = 0,
       point.size = 3.5,
       line.size = 2, 
       mainbar.y.label = "Symptoms Combinations",
       sets.x.label = "Patients with Symptom")